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南海のブルーマーリン 後編

038.jpg

キャビン内は真っ白で何も見えません。

「やっぱり俺達にはブルーマーリンなんて見分不相応だったんだ~!

近所の汚い小川でクチボソを釣っているのがお似合いだったんだあ~」

「そうだ!そうだ!クチボソでも立派過ぎる。

ザリガニで十分だあ~スルメの餌だあ~オマエはザリガニ野郎だあ~」

「オマエこそクチボソオヤジだあ~」

二人で子供のけんかをしている間に徐々に白い煙が晴れてきました。

チャーリーはエンジンルームに入ったまま出てきません。

少なくとも火災は収まりつつあるようです。

「おい、チャーリーは大丈夫か?煙に呑まれて倒れているんじゃあないのか?」

「そ、そうだ助けなきゃあ・・・・でもなんか変だぞ、火災の匂いがしない、ただ蒸し暑いだけだ」

私達は揺れる船室の中、精一杯動けるスピードでエンジンルームの開け放された扉に向かったのです。

HML01.jpg


その時突然ディーゼルエンジンの頼もしい音が聞こえてきました。

始めはゆっくりそして徐々に力強くうるさい懐かしい音です。

そして扉からはチャーリーがウサギの如く飛び出して来て、

コチラを振り返ることなくキャビンを出て行ってしまいました。

床に這いずったままの我々は顔を見合わせ、

次々起こる事態に頭が追いついていけず、呆然としておりました。

 「チャーリーは無事の様だな、アレは確かにチャーリーだよな」

「ああ、チャーリーだ、間違いない」

「エンジンはかかったよな、間違いなく動いてるよな」

「ああ、エンジンは動いている、間違いない」

「火災は収まったのかな?煙は出てないようだが・・・・」

「・・・どうもこの煙は水蒸気の様だぞ、燃えたような匂いがしないもの」

「水蒸気?・・・そうだよな一度火を噴いたエンジンがそんなに簡単に直るはずがないもんな・・・

エンジンに海水がかかっただけなんだ・・・ヨカッタ」

船の揺れは相変わらずな物の、我々はだいぶ落ち着きを取り戻してきました。

チャーリーは無事だったし、船が動いてるところを見るとキャプテンも無事でしょう。

何時までもビール缶が転がりまわる床に這いつくばっても居られません。

二人して巨大な尺取虫になり、シートに戻りました。

すっかり定位置になった美女のシートを抱きしめます。

「ところで、誰がクチボソオヤジなんだ?ん?」

「オマエがザリガニ野郎と言うからだ。ザリガニ釣りをバカにしてはいかん。

あれは奥が深い。10匹20匹釣るのは訳はない、問題はそこからだ。

去年も挑戦してバケツ一杯しか釣れなんだ」

「バケツ一杯ザリガニを釣ったのか?そんなに釣れるのか?

またホラを吹いているんじゃないだろうな?」

「ホラではない、半日で大き目のバケツ一杯だ」

「・・・オマエいい年して半日もザリガニ釣りをしてるのか?一人で?」

「・・・ああ・・・そうだ・・・一人でだ」

「・・・・・・」
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この世の終わりと思って遺書まで書いた事態も時間と共に揺れも小さくなり、

絶世の美女とも離れ、少しは起き上がって歩けるようになって来ました。

船の揺れの中で歩くには少々コツがあります。

揺れに合わせて片足を交互に曲げたり伸ばしたりして、頭をなるべく動かなくするのです。

枝に捕まっている鳥が枝が揺れても頭はあまり動かないのと同じ要領であります。

こうする事によって船酔いも徐々にではありますが収まってきました。

悪い事は続きますが良い事も続きます。だんだん嵐も静まり、

空も晴れ間が見えてきています。

もう窓には波しぶきと空が良いバランスで収まり、

現金なもので我々の頭の中は釣りのことで一杯です。


040.jpg

またもやチャーリーが扉を開け飛び込んできました。(頼れる奴ですが、忙しい奴です)

「ヒット!ヒット!」

どうやら我々がビールを飲んで詰まらぬ話をしている間に釣りのポイントに着き、

すでに仕掛けを海に流して魚を誘っていたらしいのです。

そのルアーに魚が食いつき早く来いとチャーリーは言っています。

いちばん手間がかかり地味な仕事を人任せにして、

おいしい所だけ頂くというのがこの手の釣りの醍醐味ですので、

二人とも船の後部の釣り座に走ります。

釣り座には一本の太くて短いロッドが立ててあり、

どうやらその先に大物だか小物だか判りませんがかかっているようです。

まず最初はBの番です。彼はイスに座りロッドを握りしめます。

素人用の仕掛けでありますからロッドは太く、ラインも太く、

微妙な魚とのやり取りは必要有りません。

力任せにリールを巻けば良いだけです。

不満は残るものの我々ではこのレベルで十分でしょう。

やがてBがぶッとい腕でロッドを引き、リールを巻き始めます

。魚は大きそうですが、Bの腕力を持ってすればこの程度は楽勝でしょう。

Bの体型を書いておりませんでしたが彼は筋肉バカでありまして、

身長は170センチと、さほど高くはありませんが太すぎる上腕二頭筋と分厚い胸を持っています。

体脂肪率もおそらく10を切っているでしょう。案の定楽々巻き上げてきています。
HML01.jpg


「ヘイ!チャーリー。おちゃかなちゃんはなんですか?わかりまちゅか?」

どうして何時も会話の時(ヘイ!)を最初にに付けるのでしょうか?

(ヘイ!チャーリー)の発音はかなり良いのですが、その後に続く発音は最悪です。

「たぶん・・・もう直ぐ判るよ、見ててごらん」

その言葉通りラインの端っこを注視していた我々は感嘆の声を上げました。

魚がジャンプして空中に飛び出したのです。

「ブルーマーリンだあ~」

Bが興奮して叫びますがチャーリーが冷静に

「NO!セイル、セイルフィッシュ」

[セイルフィッシュ?何でもイイ、ブルーマーリンに似ている奴だ!」

「90ポンドあるかないかだよ、でもグットフィッシュだ」

我々には1mを超す魚は大きく見えましたが地元の人たちにとっては普通サイズなのでしょう、

はしゃぐBとは対照的にチャーリーは落ち着いたものです。


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やがて横向きになって巻き上げられたセイルフィッシュは頭を棍棒で殴られ船に上げられました。

手伝おうとした我々に船長は危険だからと制止し、

「このクチバシが危険だ、ブルーほど凶暴ではないが、こいつに刺されて死んだ奴もいるんだぜ」

と、私とBにニコッと微笑み、

日本人には絶対真似の出来ない仕草と表情で親指で首を切る真似をして見せました。


セイルフィッシュの名の通り背中のひれがセイル(帆)の様に大きく美しいこの魚は

日本では、バショウカジキと呼ばれています。

ゲームフィッシュではブルーマーリン(クロカワカジキ)よりランクが落ちますが、

我々にとっては相当嬉しい魚には違い有りません。

その後7~80cm位のシーラが何本か上がりました。

Bと私は交代でイスに座り力任せに抜きあげていきます。

「なあBよ、これは釣りと言うよりただ単に肉体労働では無いのか?」

「ああ、そうだな、釣った魚はみんな船長の物になるルールだから、

我々は金を払って船長のために黙々と魚を船に上げているのだ。

俺はジムでマシンと対決している気持ちになってきた」

「ところでオマエまた筋肉が増えたんじゃないか?いったい何をするつもりなんだ、

レスラーにでもなるのか?」

「うむ、それもイイかもしれない、それよりオマエはどうなんだ

前より筋肉量は増えている様には見えないが、筋トレをサボってるな」

「筋肉が落ちない程度にはやっているがこれ以上は必要ない、

ちゃんと箸は持てるし、ロッドも振れる。

オレは軽自動車を持ち上げる気はないからな」


「そうか、それは残念だ。オマエと競争していたのに、考え直せ俺が困る」

実は私も彼と同じようにジム通いをしていてダンベルなどを持ち上げてもう5年程になるのですが、

奴がライバル視しているのは何となく感づいていました。

会えば必ず腕相撲を挑んで来て、その勝ち具合によって自分の筋肉の成長具合を計っていたようなのです。

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さて筋肉バカはほおって置いて私はシイラを引っこ抜くのに専念していましたが、

そろそろ違う魚を釣りたくなってきました。

まだカジキを釣っていません、

このままだとセイルを釣ったBに一生自慢されてしまいます。

とは言えこの釣りは完全に船長任せのお気楽釣りですので、

如何ともしようが有りません。

ここで私がブルーマーリンを釣れば物語上面白くなるのに、

肝心な時にいつもひと踏ん張りがきかない私です。

やがて無情にも時間が来たみたいで、チャーリーがロッドをかたずけ始めました。

私は遂にシーラだけに終わってしまい、

この先の一生をBの酒の肴にされる事を覚悟し、

極力Bとは酒を飲まないようにしようと心に誓ったのでした。



「そろそろ帰らないと暗くなってしまう。暗くなるとこの船ではちょっとまずいよ」

チャーリーはニコッと笑い、私にウインクしましたが、

私には何のことやら分からず嫌な予感だけが残りました。

いったい何がマズイのでしょうか?夜に乗ってはいけない船があるとは聞いた事はないし・・・


船を反転させ帰路に着いた我々は快調に進んで行きましたが、

やがて船先の向こうの空に見覚えのある黒く陰気で寒気のする大きな雲の塊が見えてきました。

「おい、ひょっとしてあれは例の奴か?またあの嵐の中を通るのか?

どうなんだ?そこのところはどうなんだ?」

「ああ・・・・どうやらその様だ、どうもここに来る為のお約束らしい・・・

オマエのキングスイングリッシュで船長に聞いてみたらどうだ?」

「ヘイ!キャプテン!あの雲はなんでちゅか? 

またおおきくゆれるのでちゅか?わたちは、あのくもきらいでちゅ!」

「この季節は何時もあんなもんだよ、アレくらいの揺れは嵐とは呼ばない。

もっともさっきは少々やばかったがね、

実はそろそろエンジンを積み替えるかオーバーホールしなければいけない時期なんだ。

水も漏るしネ。アッハッハッー」

やはりそうでした。嵐の大きさはともかくとしても、

エンジンが止まるのは尋常では有りません。

しかもエンジンルームに海水が入るという事は有ってはならない事でしょう。

Bと私の切実な願いとは裏腹に黒い雲が近づいて来ます。

我々は顔を見合せ何もしゃべりません。やがて二人の気持ちが通じ合い、

お互いうなずくと愛しの長椅子に向かって断固とした足取りで並んで進んでいったのでした。
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