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南海のブルーマーリン 後編

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キャビン内は真っ白で何も見えません。

「やっぱり俺達にはブルーマーリンなんて見分不相応だったんだ~!

近所の汚い小川でクチボソを釣っているのがお似合いだったんだあ~」

「そうだ!そうだ!クチボソでも立派過ぎる。

ザリガニで十分だあ~スルメの餌だあ~オマエはザリガニ野郎だあ~」

「オマエこそクチボソオヤジだあ~」

二人で子供のけんかをしている間に徐々に白い煙が晴れてきました。

チャーリーはエンジンルームに入ったまま出てきません。

少なくとも火災は収まりつつあるようです。

「おい、チャーリーは大丈夫か?煙に呑まれて倒れているんじゃあないのか?」

「そ、そうだ助けなきゃあ・・・・でもなんか変だぞ、火災の匂いがしない、ただ蒸し暑いだけだ」

私達は揺れる船室の中、精一杯動けるスピードでエンジンルームの開け放された扉に向かったのです。

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その時突然ディーゼルエンジンの頼もしい音が聞こえてきました。

始めはゆっくりそして徐々に力強くうるさい懐かしい音です。

そして扉からはチャーリーがウサギの如く飛び出して来て、

コチラを振り返ることなくキャビンを出て行ってしまいました。

床に這いずったままの我々は顔を見合わせ、

次々起こる事態に頭が追いついていけず、呆然としておりました。

 「チャーリーは無事の様だな、アレは確かにチャーリーだよな」

「ああ、チャーリーだ、間違いない」

「エンジンはかかったよな、間違いなく動いてるよな」

「ああ、エンジンは動いている、間違いない」

「火災は収まったのかな?煙は出てないようだが・・・・」

「・・・どうもこの煙は水蒸気の様だぞ、燃えたような匂いがしないもの」

「水蒸気?・・・そうだよな一度火を噴いたエンジンがそんなに簡単に直るはずがないもんな・・・

エンジンに海水がかかっただけなんだ・・・ヨカッタ」

船の揺れは相変わらずな物の、我々はだいぶ落ち着きを取り戻してきました。

チャーリーは無事だったし、船が動いてるところを見るとキャプテンも無事でしょう。

何時までもビール缶が転がりまわる床に這いつくばっても居られません。

二人して巨大な尺取虫になり、シートに戻りました。

すっかり定位置になった美女のシートを抱きしめます。

「ところで、誰がクチボソオヤジなんだ?ん?」

「オマエがザリガニ野郎と言うからだ。ザリガニ釣りをバカにしてはいかん。

あれは奥が深い。10匹20匹釣るのは訳はない、問題はそこからだ。

去年も挑戦してバケツ一杯しか釣れなんだ」

「バケツ一杯ザリガニを釣ったのか?そんなに釣れるのか?

またホラを吹いているんじゃないだろうな?」

「ホラではない、半日で大き目のバケツ一杯だ」

「・・・オマエいい年して半日もザリガニ釣りをしてるのか?一人で?」

「・・・ああ・・・そうだ・・・一人でだ」

「・・・・・・」
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この世の終わりと思って遺書まで書いた事態も時間と共に揺れも小さくなり、

絶世の美女とも離れ、少しは起き上がって歩けるようになって来ました。

船の揺れの中で歩くには少々コツがあります。

揺れに合わせて片足を交互に曲げたり伸ばしたりして、頭をなるべく動かなくするのです。

枝に捕まっている鳥が枝が揺れても頭はあまり動かないのと同じ要領であります。

こうする事によって船酔いも徐々にではありますが収まってきました。

悪い事は続きますが良い事も続きます。だんだん嵐も静まり、

空も晴れ間が見えてきています。

もう窓には波しぶきと空が良いバランスで収まり、

現金なもので我々の頭の中は釣りのことで一杯です。


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またもやチャーリーが扉を開け飛び込んできました。(頼れる奴ですが、忙しい奴です)

「ヒット!ヒット!」

どうやら我々がビールを飲んで詰まらぬ話をしている間に釣りのポイントに着き、

すでに仕掛けを海に流して魚を誘っていたらしいのです。

そのルアーに魚が食いつき早く来いとチャーリーは言っています。

いちばん手間がかかり地味な仕事を人任せにして、

おいしい所だけ頂くというのがこの手の釣りの醍醐味ですので、

二人とも船の後部の釣り座に走ります。

釣り座には一本の太くて短いロッドが立ててあり、

どうやらその先に大物だか小物だか判りませんがかかっているようです。

まず最初はBの番です。彼はイスに座りロッドを握りしめます。

素人用の仕掛けでありますからロッドは太く、ラインも太く、

微妙な魚とのやり取りは必要有りません。

力任せにリールを巻けば良いだけです。

不満は残るものの我々ではこのレベルで十分でしょう。

やがてBがぶッとい腕でロッドを引き、リールを巻き始めます

。魚は大きそうですが、Bの腕力を持ってすればこの程度は楽勝でしょう。

Bの体型を書いておりませんでしたが彼は筋肉バカでありまして、

身長は170センチと、さほど高くはありませんが太すぎる上腕二頭筋と分厚い胸を持っています。

体脂肪率もおそらく10を切っているでしょう。案の定楽々巻き上げてきています。
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「ヘイ!チャーリー。おちゃかなちゃんはなんですか?わかりまちゅか?」

どうして何時も会話の時(ヘイ!)を最初にに付けるのでしょうか?

(ヘイ!チャーリー)の発音はかなり良いのですが、その後に続く発音は最悪です。

「たぶん・・・もう直ぐ判るよ、見ててごらん」

その言葉通りラインの端っこを注視していた我々は感嘆の声を上げました。

魚がジャンプして空中に飛び出したのです。

「ブルーマーリンだあ~」

Bが興奮して叫びますがチャーリーが冷静に

「NO!セイル、セイルフィッシュ」

[セイルフィッシュ?何でもイイ、ブルーマーリンに似ている奴だ!」

「90ポンドあるかないかだよ、でもグットフィッシュだ」

我々には1mを超す魚は大きく見えましたが地元の人たちにとっては普通サイズなのでしょう、

はしゃぐBとは対照的にチャーリーは落ち着いたものです。


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やがて横向きになって巻き上げられたセイルフィッシュは頭を棍棒で殴られ船に上げられました。

手伝おうとした我々に船長は危険だからと制止し、

「このクチバシが危険だ、ブルーほど凶暴ではないが、こいつに刺されて死んだ奴もいるんだぜ」

と、私とBにニコッと微笑み、

日本人には絶対真似の出来ない仕草と表情で親指で首を切る真似をして見せました。


セイルフィッシュの名の通り背中のひれがセイル(帆)の様に大きく美しいこの魚は

日本では、バショウカジキと呼ばれています。

ゲームフィッシュではブルーマーリン(クロカワカジキ)よりランクが落ちますが、

我々にとっては相当嬉しい魚には違い有りません。

その後7~80cm位のシーラが何本か上がりました。

Bと私は交代でイスに座り力任せに抜きあげていきます。

「なあBよ、これは釣りと言うよりただ単に肉体労働では無いのか?」

「ああ、そうだな、釣った魚はみんな船長の物になるルールだから、

我々は金を払って船長のために黙々と魚を船に上げているのだ。

俺はジムでマシンと対決している気持ちになってきた」

「ところでオマエまた筋肉が増えたんじゃないか?いったい何をするつもりなんだ、

レスラーにでもなるのか?」

「うむ、それもイイかもしれない、それよりオマエはどうなんだ

前より筋肉量は増えている様には見えないが、筋トレをサボってるな」

「筋肉が落ちない程度にはやっているがこれ以上は必要ない、

ちゃんと箸は持てるし、ロッドも振れる。

オレは軽自動車を持ち上げる気はないからな」


「そうか、それは残念だ。オマエと競争していたのに、考え直せ俺が困る」

実は私も彼と同じようにジム通いをしていてダンベルなどを持ち上げてもう5年程になるのですが、

奴がライバル視しているのは何となく感づいていました。

会えば必ず腕相撲を挑んで来て、その勝ち具合によって自分の筋肉の成長具合を計っていたようなのです。

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さて筋肉バカはほおって置いて私はシイラを引っこ抜くのに専念していましたが、

そろそろ違う魚を釣りたくなってきました。

まだカジキを釣っていません、

このままだとセイルを釣ったBに一生自慢されてしまいます。

とは言えこの釣りは完全に船長任せのお気楽釣りですので、

如何ともしようが有りません。

ここで私がブルーマーリンを釣れば物語上面白くなるのに、

肝心な時にいつもひと踏ん張りがきかない私です。

やがて無情にも時間が来たみたいで、チャーリーがロッドをかたずけ始めました。

私は遂にシーラだけに終わってしまい、

この先の一生をBの酒の肴にされる事を覚悟し、

極力Bとは酒を飲まないようにしようと心に誓ったのでした。



「そろそろ帰らないと暗くなってしまう。暗くなるとこの船ではちょっとまずいよ」

チャーリーはニコッと笑い、私にウインクしましたが、

私には何のことやら分からず嫌な予感だけが残りました。

いったい何がマズイのでしょうか?夜に乗ってはいけない船があるとは聞いた事はないし・・・


船を反転させ帰路に着いた我々は快調に進んで行きましたが、

やがて船先の向こうの空に見覚えのある黒く陰気で寒気のする大きな雲の塊が見えてきました。

「おい、ひょっとしてあれは例の奴か?またあの嵐の中を通るのか?

どうなんだ?そこのところはどうなんだ?」

「ああ・・・・どうやらその様だ、どうもここに来る為のお約束らしい・・・

オマエのキングスイングリッシュで船長に聞いてみたらどうだ?」

「ヘイ!キャプテン!あの雲はなんでちゅか? 

またおおきくゆれるのでちゅか?わたちは、あのくもきらいでちゅ!」

「この季節は何時もあんなもんだよ、アレくらいの揺れは嵐とは呼ばない。

もっともさっきは少々やばかったがね、

実はそろそろエンジンを積み替えるかオーバーホールしなければいけない時期なんだ。

水も漏るしネ。アッハッハッー」

やはりそうでした。嵐の大きさはともかくとしても、

エンジンが止まるのは尋常では有りません。

しかもエンジンルームに海水が入るという事は有ってはならない事でしょう。

Bと私の切実な願いとは裏腹に黒い雲が近づいて来ます。

我々は顔を見合せ何もしゃべりません。やがて二人の気持ちが通じ合い、

お互いうなずくと愛しの長椅子に向かって断固とした足取りで並んで進んでいったのでした。
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南海のブルーマーリン 前編

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(レモン)


その日我々は日本の空港で手荷物検査を受けておりました。

我々と言うのは前回キャンプで一緒だったお調子者のBです。

二人で4メートル超のまかじきを釣り上げてやろうと分不相応の考えを持ち、

羽田空港のロビーで順番を待っていたのでした。

他の二人AとCは一応名の知れた大手のサラリーマンであり、

そうそうみんなそろって集まれる機会はないのです。

ちなみに信じられませんが彼らは会社ではそこそこ偉いのであります

(キャンプでの様子を会社の部下には絶対見せられません)

私とBは良く言えば自営業者で有り、悪く言えば職業不詳ですので、

地位と名誉と金は有りませんが時間だけは自由になります。

検査は手荷物を赤外線で走査して中身をモニターに映し出すのですが、

その時係りの女性が上司と思しき男性に呼ばれて席を立ち居なくなってしまいました。

私はチャンスと思い体をずらせてモニターを覗き込みました。

と言うのもバックの中身に少々不安があったのです。

中には振り出し式の小さな金属製のルアーロッドと数々のルアーが無造作に放り込んであり、

ひょっとしたら没収されるかもしれないと思っていました。

案の定モニターには得体の知れない数々の白い文様が表れ、明らかに不審物であります。

係員が戻ってきてモニターを見つめました。考えております。

あっ、うつむきました。顔をしかめています。間違いなく疑っております。マズイ!・・・・

やがて彼女は決心した模様であります・・・・・・なんと私は無事通過できました。

当時は現在と違ってテロなどの心配はなく、空港のチェックはそれほど厳しくなかったのです。

しかもその時ちょうど空港職員の組合がスト中だったものですから、

現場はかなり混乱していた様でした。
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(本文とは関係有りません)


南国の太陽がこれでもかと降り注ぐ港で

私達二人は振り出し式のちゃちなルアーロッドを振り回していました。

チャーターしていたクルーザーが用意できるまでの少しの間も待ちきれずにルアーを放り込みます。

赤やら青やら港の中と思えないほどのきれいな魚の群れが泳ぎ回り、

飽きないくらいの間隔で10cmほどの平たい魚が釣れます。

「俺はこれだけで満足してしまいそうだ。ねえちゃんはビキニだし」

「ああ、日本のしゃれた名前の釣堀より良く釣れる。しかもここは無料だし、ねえちゃんはビキニだ」

「日本のスレた魚たちとは違いルアーの選り好みはしないな、

100円のスプーンでも釣れるぞ。しかもねえちゃんはビキニだ」

「ねえちゃんはビキニだが、オバチャンもビキニだ」

「ウン、太ったオバチャンもビキニだし、太ったオジちゃんはトップレスだ」

「太ったオジちゃんのビキニは見たくない」

「痩せたオジちゃんならイイのか?」


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画像、写真の修正、合成、修復など、写真を自自在に加工する事が出来ます。目をパッチリ二重に、肌をきめ細やかに、体型をスマートにシミ、シワを除去して若々しく、写真の修正、合成の事ならお任せ下さい。

 

やがて時間が来て私達はクルーザーに乗り込みました。

釣り道具などは全て船の常備品ですから気楽なもんです。

我々は自分の釣り道具を持って、場所を選定し、

ターゲットを絞る本格的なトローリングをする気はまったく無く、

観光の延長線上で「何か大きな魚が釣れればよいなあ~」位の考えであります。

ですので、この章の題は正確には「南海のブルーマーリン・・・

だったらいいなあ~出来れば4mを超せばなおいいなあ~」です。

乗組員は私達二人と太っちょで190cmを越すであろう巨漢のキャプテンと

まだ10代で私達の世話をしてくれるボーイの4人です。

我々は、外洋に出るにはやや不安が残る大きさのクルーザーですが喜び勇んで出港しました。

私の英語能力は並外れてすばらしいので、さっそくキャプテンに話しかけます。

「ハジメマチテ!ワタチ、ニポンノアングラーアルヨ!

キョウハ、イパイ、イパイ、オチャカナ、ツリタイアルヨロシ・・・デシタネ・・・デチタカ?」

「初めまして、今日は君達に大物を釣らせる為に俺はベストを尽くすぜ!」

(たぶん船長はそう言ったと思われます)

「オオ!ソデチュカ、ソデチュカ、ソレハ、タノモシデシタネ・・・・デチタカ?」

「しばらくこのリーフの中を走って外洋に出て、さらにしばらく走るとそこがポイントだ。

それまですることはないからビールでも飲んでゆっくりしていてくれ、OK?」

(キャプテンはそう言ったはずです)

「OK、OK、ワタチビールスキアルヨ、オチャケ、アレバドコデモハッピーデチタネ・・・・デチタカ?

・・・デチョウ?・・・デチュ?」
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(めずらしく卵をあたためているピヨ)


天気は最高、コバルトブルーの海とその下のさんご礁、海は完全に凪状態で風もなし、

クルーザーは気持ちの良い速度で走ります。

キャビンの中で飲む冷えたビールは旨いに決まっています。

ボーイのチャリー(完全に仮名です)が次々とバドワイザーの缶を出してくれて

我々は上機嫌でありました。

「ところで、オマエその英語らしきものは話すのをやめたほうがイイ。

過去、現在、未来がごっちゃ混ぜだし、疑問形かそうでないかすら分からん。

発音に至ってはこの世の終わりだ。日本の恥だし国際問題になるぞ」

「ナニを言う、ちゃんと通じているではないか、船長の笑い顔を見たろう?

国際親善に大きく貢献しているじゃないか」

「アレは笑っているのじゃなくて、笑われているのだ。

しかしまあしょうがない、話さないと上手くはならないからな。

でも大事な話は俺にさせろ、間違って船がキューバにでも行ったらかなわんからな。

オマエには本物のキングスイングリッシュのお手本を聞かせてやろう」

少し不満はありましたがBは大学時代成績優秀でしたし、

海外旅行も何回も経験しているので、ここはしぶしぶ任せる事にしました。

「良く聞いてろよ。ヘイ!チャーリー」

「yes、何だい?」

「チミは、なんちゃいでちゅか?がくせいちゃんでちゅか?」

「17歳で学生だよ、毎年シーズンになるとこの船でアルバイトしてるのさ、給料もいいしね」

「ちょうでちゅか、ちょうでちゅか、ちょれはヨイコでちゅねえ、うちのむちゅことおなじトシなのに、

チミはえらいなあ~」

汗だくで一生懸命チャリーと話をしているBを捨て置いて、

ビーフジャーキーをかじりながら冷えたバドワイザーをグイグイ飲み干しました。
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(向かって右から1歳、2歳、3歳のニワトリの卵)


青い海と青い空はどこまでも続いておりました。

やがて船はリーフを出て外洋へと進んで行くのですが、ここで海の表情は一変します。

あれほど静かだった海面は荒々しさを増し、青かった海はどす黒く変色してきました。

むかし何かの小説で読んだのですが海の色は7色有ると言うのです。

主人公は一面ミルク色の海をひたすら何日も進んで行ったそうです。

私は半信半疑で一度ミルク色の海を見てみたいもんだと思っていましたが、

この茶色っぽい黒っぽいなんとも表現しようのない不思議な色の海面を見ていると

何でもありそうな気になってきました。

船長に聞いてみようと思いましたが、彼はキャビンの上の二階になった所にある操舵室に居るので、

この揺れでは登っていく前に振り落とされそうだし

(二階に行くにはデッキに出てはしごを上らねばなりません)

なりより邪魔だろうと思い直し、おとなしくテーブルにしがみついていました。
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(自作ルアー)


時間が増すごとに波は荒くなってゆきます。

もう既に座っている事も出来ず、私達は船に固定された長いすに下向きに寝そべり、

しっかりシートに抱き付いておりました。なんとも情けない恰好ですが、

そうでもしないとキャビンの中でアッチコッチ飛ばされてしまいます。

キャビンは私達が開けたビールの缶が音を立てて飛び交い派手な音を立てています。

でもそれを拾って片付ける事は到底不可能であると判断し、そのままにしておきました。

「なあ、俺達は死ぬのか?死んでしまうのか?どうなのだそこのところは?」

Bは青い顔をして私に尋ねます。二人は確実に船酔いをしておりました。

酒で酔った上に船にも酔い、青い顔も恐怖のせいか船酔いのせいかも分かりません。

「知らん!船長に聞け。我々に今出来る事はこの長椅子のシートを絶世の美女と思い込み、

しっかりと抱きついている事である。それ以外考えるな」

キャビンには丸い窓があって外の様子が垣間見えます。

別世界のような窓の外は真っ黒な雲と真っ白な波しぶきが交互に見えます。

そのうち窓の外は海一色になってしまいました。

「どういうことなんだ!窓には海水しか見えんぞ、窓と言うのは上か横に付いているもんだ。

横が下になったのか?この船はグラスボートなのか?」

おそらく船よりはるかに大きな波が立っているのでしょう。

その証拠に何分かすると今度は鉛色の空しか見えなくなりました。

さすがにのん気な私も不安になってきます。

チャーリーもどこに行ったか分からず、姿を見せません。

もしかしたら船長と一緒に波に飲まれたんじゃあ?

あんな高い所で、ほぼむき出しでキャビンよりもはるかに揺れは大きいであろう

操舵室に居たんだから落ちても不思議はないんじゃあ?
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〔自作ルアー)


「おいBよ、キャプテンもチャーリーも居なくなった。もう俺達でナントカするしかない。

オマエは操船が出来るか?」

(緊張と恐怖のあまり自分が何を言っているのか判っていおりません)

「な!ナニを申しておる。いなか侍め!キャプテンがどうしたって?チャーリが何だって?

操船がどうしたと言うのじゃ申してみよ!」

私と同様Bも動揺を隠せません。船酔いと酒酔いと恐怖でパニック状態であります。

「船を波に向けて直角にしなければならん!横波を受けるとひっくり返されてしまうぞ。オマエやれ」

一見冷静そうな私の発言ですが、後で考えると明らかに映画とアニメの見すぎです。

しかもセリフはヒーロー風ですが人にやらそうとする所がいかにも小物であります。

「アホ!そんな事、出来る訳がないであろう。拙者は湖のボートさえ真っ直ぐには漕げん!」

上下左右すら判らずシートに必死でしがみ付く事しか出来ない我々は、

さらに追い討ちをかけられました。

今まで力強く動いていたエンジンが止まってしまったのです。

いきなりの静寂、出航してから数時間の間に聞き慣れていて、

時にはうるさいとさえ思っていた、いとおしいエンジンが黙ってしまいました。

聞こえるのは激しい波の音と風の音のみ、

それと同時に我々のつまらぬ会話も終突然わってしまいました。

今までも恐怖はありましたが、どこかで大丈夫と思う心が残っていて、

三割ぐらいは冗談でしゃべっていたのですが、

ここに来て本当に心配になりました。

この嵐と呼べるほどの状況の中で

エンジンを意識的に止めるキャプテンはおそらく皆無でありましょう。間違いなく事故です。

「オレは女房に手紙を書く事にした、空き瓶に入れて海に流すのだ。

いつか誰かが拾って届けてくれるだろう。そしてその時女房は声を上げて泣くのだ」

さすがはBです、彼の嫁が泣くかどうかは別にして、

この状況下でもまだ冗談が出るとは見上げた奴であります。私は少し気が楽になりました。

「大丈夫だよ、キャプテンがエンジンのテストをしているのさ、その内動くよ・・・・

動くといいなあ・・・・」

Bは黙ったままソロリソロリとシートの上を這い出し

(その恰好はまるで巨大なしゃくとり虫を連想させました)自分のバックに手を伸ばします。

そして中から手帳とボールペンを引っ張り出しなにやら神妙な顔で書き始めました。

「イ、イカン。奴は本気だ。」

Bは本気で嫁にラブレターを書いている模様です。

奴が壊れると私も壊れそうなので、

もうこれ以上余計な物は見ないようにして目を閉じる事にしました。

アクション映画はブラウン管のコチラ側で見るもので、けっして現実に起こってはいけません。

やがて良い事と悪い事が同時に起きます。

チャーリーがびしょぬれになってキャビンに突進してきて、

床にある扉を両手で目いっぱい持ち上げました。

中からは白い煙がシューシューモウモウと湧き上がり、

キャビン内は真っ白で何も見えません。キャビンの真下はエンジンルームだったのです。

エンジンが燃えている・・・少なくともチャーリーは無事だったので笑いかけたのですが、

その後の煙の噴出でBと私は笑顔が凍り付いてしまいました。

私の耳にはBがボソッとつぶやいた一言がこだまの様に頭の中を駆け巡っていました。

「終わったな・・・・」                    つづく



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氷雨の中のチャンピオン(後編)

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(写真と本文は関係ないことが多いです)

キャンプ道具、釣り道具などみんなでフウフウ言いながら運びます。

「この次は車を乗り入れられるキャンプ場にしようぜ」

なにせみんな年ですのですぐにへばってしまいます。

「何を言っておるのだ車が近くまで行けるという事は、それだけ自然が無いということだ。

楽で豪華な生活がしたければキャンプなどしなくて良いのだ」

一番疲れて座り込んでいるBが言います。

確かにここの湖はキャンプ場と銘打っていますが、

人工物は小さなロッジとトイレと炊事場くらいであとは何も有りません。

通ってきた道も前編で書いた通りなので、かなり根性がないと来る気にはなれないでしょう。

そういえば来ている連中は家族連れは皆無、カップルも皆無、

どこかの大学の体育会系のグループが何やらかけ声をかけているのみです。

(それから5年位して再び訪れましたが道は完全舗装され、

曲がりくねった箇所はトンネルが出来、あっけなく着いてしまいました。

キャンプ客もカップルこそ居ませんでしたが小学生が林間学校に来ていて、和やかな雰囲気に包ま

れておりました。)

私たちは楽で豪華なキャンプが結構好きです。

小さな子供とか女性が気楽にキャンプに来れたらいい事だと思います。

我々も年ですし、家族などと出かける時はなるべく楽な所へ行きます。

ただ年に何回か不便なキャンプがしたくなるのです。

友人たちも同じみたいで、そんな時は釣り道具と酒以外は極力荷物は少なくし、

テントも登山用の小さなものにします。

テーブルなし、イスなし、大型のストーブ(バーナー)なし、タ-プなし、バーベキューコンロなし、

炭なし、着替えなし、クマのぬいぐるみなし、ランタンも全員で一個。

でもこれは場所を選ばねばなりません。

家族連れが多い設備の整ったオートキャンプ場は結構肩身の狭い思いをします。

周りは大型テントがズラリと並び、明々としたタ-プの下では豪華なバーベキューが始まり

子供達ははしゃぎまわります。

年々遠くへ行かないと不便なキャンプは出来なくなってきています。

何と不便な事でしょう。元々我々はキャンプ場と名のつく所ではキャンプはしなかったのです。

海や山に行って今日はここで泊ろうとテントを張り出したのものですが、

昨今では警察、消防、地元の方などに迷惑がかかる恐れがありますし、

防犯上の問題もありますので、なかなかそんな事も出来なくなりました

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(写真と本文は関係ないことが多いです)

さて、テントがブルーシートでない分、かろうじてキャンプをしていると分かる我々は、

夜のために焚き火用の大量の薪を積み上げ終わると、

そそくさと全員がそれぞれ釣りのポイントへ散っていきます。

私は湖用の長いフライロッドと、馬鹿でかいルアーが投げられる頑丈なルアーロッド、

それに近所の川でコイを釣るときに使う○州屋で買った、

たしか1950円だったかのリール付きの竿と、りんたろうミミズを担ぎ、

チャンピオンと共にお目当てのポイントに向かおうとしました。

するとAが

「お前なあ、いったいその恰好は何なのだ、

フライロッドとルアーロッドはまだいいとして、りんたろうミミズとはどういうことだ。

お前には節操がないのか」

「そんなモノはナイ!オレは湖中のサカナを全部釣り上げてしまうのである」

と大見得を切った時、フライリールからラインが引き出されるジージーという音。

さすがオレ、竿を振る前にもう釣ってしまったかと思いましたが、

そんな事はあるはずがなく、さっと振り返ると何とチャンプがラインを咥え、

足に巻きつけグルグルそこら辺を回っていました。

走る度にラインが体に巻きつきます。

「あッ!やめろヤメナサイ。そんなことしたら・・・」

私は叫びながら追いかけますがチャンプはパニックに陥ってなおさら逃げます。

Aも一緒に捕まえようとしますが、たっぷり食べ十分に睡眠をとったチャンプは元気満々走ります。

私は、はっと思いつき手に持っていたロッドに付いたリールから出るラインを掴みました。

それから20分間チャンプに巻き付いたラインを丁寧に解きほぐしている私の顔は

人生の不幸を一心に背負った老人のそれであった事でしょう。

「夕まづめの一番釣りに良い時間にチャンプとの良いコミュニケーションが出来たじゃないか」

とAは慰めともいやみとも取れる言葉を私にかけながら手伝ってくれました。


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多少時間をロスしましたが、やっとロッドを振り始めます。

まだ水生昆虫が羽化するには早い時期なのですが、

構わずドライフライを選びポイントと思われる場所にそっと置いてくるように努めます。

「あのう、もしもし、この時期にドライとはずいぶん思い切った事をしますねえ。

さすが、師匠ともなると違いますなあ」

横でAが慇懃無礼に語りかけます。

「うむ、よお~く見ておきなさい。オレのフライにかかれば湖の底のサカナも誘い出されるのだよ」

「ところでその不恰好な微妙にメイフライに似た物のマテリアル(素材)は何なのですか先生」

「これはリュウノスケとヒヨである」

「・・・・」

5分くらい沈黙が続いた後Aが真顔で

「ソレ、どこで売っているんだ?」

「どこにも売っていないよ、自分で採ってくるんだ。

中国の、パンダでも近づけない山奥に幻の・・・・」

「はい、はい。嘘だと言う事がよ~く分かった」
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(写真と本文は関係ないことが多いです)

バカな話をしている間に時間は過ぎ、みんなはテントに戻って来ました。

大急ぎで焚き木に火をつけ、宴会を始めます。

燃えて炭になった樫の木のカケラをいくつか焚き火から引っ張り出し、

横に大きな石を置いてその上にばかでかい網を乗せます。

みんなは各々持ってきた食材を焼き始めました。

我々のバーべキューは他の人達とは少し違います。

魚介類、かまぼこ、ちくわ、野菜などで、肉はほとんど有りません。

悲しい事に年をとったおじさん達の胃は脂っこい物を受け付けなくなっているのです。

先ほどの釣りで唯一Cだけが虹鱒を釣り上げたので、

Cは自慢話(たぶん自慢話だと思います)を始めましたが、

彼の話はあまりにもマニアックな為フライフィッシングをある程度知っている我々にも理解不能です。

「このレインボートラウトの虹の模様は住むところによって微妙に違うんだ。

おそらく#×○△*%&と*?%$のせいだと思うんだが・・・

(私に分かるのはここまでです)

「&%×#の!?*$*のハッチは#$&÷+!が○○した時で・・・」

(もはや手に負えません)

「ストマックポンプで出してみると、!○×#△?×÷%・・・」

(すでに神の領域です)

普段はあまりしゃべらない奴ですし、

こんな話を聞いてくれる人間はおそらく我々しかいないであろうと推測できるので、

この時はみんな真面目な顔で聞いている振りをしてやります。

ひとしきりしゃべり終わると満足をしたみたいなので、

焼き上がったそこそこの大きさのレインボートラウトをみんなでかたずけました。

だいたい飲むためにキャンプに来るのか、釣りをするために来るのか分からない連中ですので、

キャンプ道具より酒の方が重いんじゃないかと思えるぐらいの量を持ち込んで来ています。

「どうしてこんな所にビールを持って来るんだ。荷物の中で一番重いぞ」

「焚き火にはビールなんだよ」

「焚き火にはバーボンじゃないのか?少なくとも西部劇ではそうだぞ」

「オマエはローハイドとライフルマンで育ったからそんなことを言うんだ」

「いや、俺はコンバットと宇宙大作戦で育ったんだ。通信担当の黒人の女の人は良かった!」

「ところでペネロープと黒柳徹子はどうしてあんなに似ているんだろう?」

「ロボコンの実写版を見た事があるか?あれはさすがに笑えた」

「鉄人28号の実写版は見た事がある」
 
もはや最初の話はどうでも良く、建設的な話はまるで出てきません。

盛大な焚き火の周りで中年オヤジ達の何時果てるとも知れないバカ話を

楽しそうに聞いているのはチャンプだけであります。

私は犬のこういう所が好きです。

何を話しているのかはまったく分からないのに何やら楽しそうだ位は分かるのでしょう。

女房より真剣に楽しそうに私達の話に耳を傾けてくれます。

やがてさすがに辛抱強いチャンプもウトウトし始めた頃、

全員歯も磨かずテントの中に入っていくのでした。
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(写真と本文は関係ないことが多いです)


一人用のテントにチャンプを抱いて一緒に倒れこみ爆睡です。

早朝からハードなスケジュールだった為にすぐに寝入ってしまいました。

しかし真夜中頃、異様な物音に私は目を覚ませたのです。

「ボリ、ボリ、ガリ、ガリ」

何かを砕くようなかじる様な物音にぞっとしました。

この辺にはツキノワグマがいるのです。

野生のクマには以前一度出会ったことがあります。

クマザサの生い茂った斜面を渓流に向かって下っている時、

川原に小さく黒い塊が歩いていました。

私は足を止め息をひそめます。距離はかなりあるので心配はないと思いましたが、

やはり体は凍りつきます。

ゆっくり回れ右して車までたどり着いた私の背中は冷や汗でびっしょり濡れておりました。

そんな経験が有るもんですから即座にクマだと思ったのです。

でもテントの外の食料などは全てかたずけてきれいにしてあるし、

何をかじっているんでしょうか?しかもあまりにも音が小さく、あまりにも近い。

勇気を出してゆっくり音のする後ろの方を見ると・・・・

ぼんやりとテントに差し込む月明かりに小刻みに動くチャンプのお尻が目の前に見えました。

(起きてすぐ見る光景が犬の肛門と言うのはあまり頂けません)

昼間沢山の睡眠をとり、宴会中もウトウトしていた彼は夜中にすっかり目が覚め、

お腹がすいたのでしょう、

酒のつまみに置いてあった柿の種の大袋に頭を突っ込み、ボリボリ食べていたのでした。

私はほっと安心すると同時に体中の力が抜け、恐怖の裏返しでしょうか非常に可笑しくなり、

大笑いしてしまいました。柿の種をくっつけた顔をこちらに向け

へらへら笑うチャンプと二人の夜はこうして更けていったのでありました。

この後チャンプの運命はどうなったかと言うと、Cが欲しいと言い出し無事就職が決まったのです。

実は最初からチャンプを飼いたいと思っていたのですが、

釣りの事しか自己主張しない彼はなかなか言い出せなかった様なのです。

それで私がキャンプ場の管理人に売り込んでいた時も

「早く荷物を運ぼう」などと消極的な邪魔をしたのでした。

寡黙でやさしいCと気のいいチャンプは良い取り合わせでありましょう。

それから1年後、私はCの自宅を訪れたのですが、

チャンプはピオンと名を変え、ラブラドール位の大きさになっていました。

しかしレトリバーと似ているのは大きさと気の良さぐらいで、

姿はますます雑種の域を極めて、何の犬種が幾つ混じっているのか想像すら出来ず、

一言「ヘンテコ」としか形容出来ない風体でありました。

私を覚えているのかどうか分かりませでしたが、

顔を見るなりユサユサ尻尾を振り、頭を下げてへらへらノソノソ近寄ってきた彼は

拾った時と比べると、はるかにはるかに幸福そうでありました。 


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氷雨の中のチャンピオン(前編)

暦では春とは言っても氷雨が降ってる寒い日に、

何を考えていたのか私は友人達3人と共に標高の高い湖にキャンプに行く事になりました。
 
暗い時間にのそのそ起き出し、家族の目を覚まさせない様に仕度をしていたのですが、

我が家のリビングには鶏入りの段ボール箱3箱、ウサギ、インコ、亀が居ますので、

いきなりの明るさと私の発てる物音で一斉に起きだし、自己主張を始めます。

インコ達はギャーギャー鳴き出しますし、ウサギは餌箱をかじり出します。

特に冬の間夜だけ室内に入れてある鶏は最悪で、

メスのクセに大声を立て始めリビングはさながら小アマゾンの様相を呈します。

「静かにしなさい、まだお前達の起きる時間ではない、女房が起きるだろう。

怒られるのは私なのだぞ」
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当然のことながら私の言う事なぞ聞くはずはなく、

おそらく目を覚ましているであろう女房と顔を合わせる前に大急ぎで家を飛び出しました。

駐車場に出てルアーなど釣り道具一式とキャンプ道具一式をガチャガチャ、ズリズリ

不器用に引きずりながら車に放り込み、

途中で大きな音を立てて落ちたキャンプ用のフライパンを拾い、コレも放り込みます。

なるべく静かに事を運ぼうと画策していたのですが、

これ以上無いと言うくらいに大騒ぎになってしまいました。

以前も朝早く出かける時、女房に「わざと大きな音を出して私を起こしているんでしょう」

といわれた事が有ります。

「チガウヨ、ソンナコトナイヨ、ゴカイダヨ」

と弁解したのですが信じてもらえませんでした。
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湖は解禁になったばかりで、冬の魚の釣れない時期にいい加減うんざりしていた私は、

喜び勇んでみんなとの待ち合わせの場所である、湖のある山のふもとを目指し出発したのです。

山の麓までは車で3時間の距離があり、どんよりと曇った低い雲をワイパー越しに見上げながら、

川の土手の真っ直ぐ伸びた見晴らしの良い道を、天気とは裏腹に良い気分で車を飛ばしていました。

その時少し先の道路上に黒い小さな影が見えます。

ゴミ袋かなと思いスピードをゆるめて近づくと、その物体は紛れもなく子犬でした。

車を端に止め、ほとんど雪になっていた雨の中に出て見下ろすと、

ソイツは黒と茶色のまだら模様で、どこからどこを見ても立派な雑種犬でした。

「雑種」と云う犬の種類があったら間違いなく品評会でチャンピオンになっていた事でしょう。

奴は私を見上げ、へらへら笑いながらしきりに尻尾を振ります。

どうやら姿形だけでなく性格も見事に雑種の様で、

その人のよさそうな笑い顔に私もつられて笑いながら抱き上げました。


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画像、写真の修正、合成、修復など、写真を自自在に加工する事が出来ます。目をパッチリ二重に、肌をきめ細やかに、体型をスマートにシミ、シワを除去して若々しく、写真の修正、合成の事ならお任せ下さい。

体を触ってみると思ったとおりガリガリに痩せて体温も低くなっています。

私は周りを見渡しました。人家ははるか遠くに2~3軒あるだけで人気はありません。

車もほとんど通らず寂しい場所です。おそらく捨てられたのだと思いますが、

コイツ一匹ではないはずだと思ったので河川敷を見渡しました。

人が出入りできそうも無く薮に覆われています。

しばらく目で探しましたがあきらめて、雪の積もった頭を撫でながら車の中へ引き返しました。

タオルで体を拭いてやりながら、さてどおしたもんかと考えます。

ウチにはすでに非の打ち所の無い雑種のケンがおりますので、2頭は飼えません。

かといってこのまま捨ててしまえば間違いなく死んでしまうでしょう。

「まあいいか、とりあえずキャンプに連れてゆこう」

元来いい加減な私の性格が幸いしてこの雑種のチャンピオンは、

いっしょに車に揺られる事となったのでした。
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途中コンビニに立ち寄りパンと牛乳を買い食べさせます。

既に乳離れは済んでいるらしく、がつがつ食べている姿を見て一安心しました。

体温も正常だと思われるくらいに上昇してきたのでもう死ぬ事はないでしょう。

いったい何時から食べてないのか分かりませんが食べっぷりは見事なものです。

山の麓の蕎麦屋の駐車場で仲間達と合流して子犬を紹介しました。

「コイツはとても良い犬なのだョ。

みんなは知らないとは思うけれど、ヒマラヤの奥地に住む由緒正しいチャンピオンと言う犬種なのだ。

コイツの親は品評会でグランドチャンピオンを取ったのだョ。

だからコイツはチャンピオンのグランドチャンピオンの息子のチャンピオンなんだ。

今日はみんなは運がイイ。

ボクは気分が非常に良いからこのチャンピオンのグランドチャンピオンの・・・・えーと、何だっけ・・・

とにかくコイツを何とタダであげよう。誰かイランカネ」

友人B

「オオ、そいつはすごい、かの有名なチャンピオンのグランドチャンピオンの息子のチャンピオンか!

う~ん、ただ残念だ、右足の先がソイツは白い!

本当のチャンピオンの犬種は左足の先が白くなければならぬ!

でも案ずるな友よ、グランドチャンピオンはムリだがチャンピオン位にはなれる。

末永く可愛がってやるのだぞ」

友人C

「・・・・オマエそいつをどこで拾ったんだ?」

心配性のAが

「ねえ、ところでこの雪なんだけど、平地でコレだから山の上はもっとすごいんじゃない。

遭難しちゃうかもよ」

「大丈夫、ダイジョウブ冬山に比べたらこんなものなんでもないよ」

一度も冬山に登った事のないBが言います

「この寒さじゃあヤマメも釣れないかなあ」と釣りのことしか頭に無い私。

いつも無口なCは「・・・・寒い・・・」

「早く出発しようぜ、これから2時間は山道だよ」

「う~ん、雪がなあ」

「湖が凍って釣れないかも知れないどうしよう」

「・・・・」

と、らちが明きません。結局キャンプ場の管理人に電話をして様子を聞く事にしました

幸い雪は大したことはないらしく管理人の親父は

「ダイジョウブ、ダイジョウブ、もうすぐ晴れるよココの山の事は俺が一番知っている、

心配ない、シンパイナイ」

とまるでBみたいに調子よくしゃべっていました。

私のイメージする山屋は(頑丈な体格で寡黙で髭が生えていて、そして頼りがいがある男。

髭の生えたジョンウエイン)なのですが、この管理人の親父はそれとは正反対のような気がしました。

一抹の不安を覚えながら助手席に元気になってニコニコ笑っているチャンピオンを乗せ、

全員で出発しました。
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山道はこれが本当の山道だと言うくらいの山道でした。

当然舗装はしてなく、車はすれ違えません。

真っ直ぐな所がないと思えるくらい曲がりくねっています。

ハンドルも絶えず左右どちらかに切っている状態で、

でこぼこの道でお尻がシートに付いていないときは頭が天井に付いているといった有様でした。

私のフェラーリではこの道は大変厳しく

(ちなみに我が家ではマークⅡの事をフェラーリと呼び、

125CCのスズキのスクーターをBMW、

ホンダのスーパーカブ50CCはベンツと呼んで親しんでいます)

しかも車酔いで気持ちが悪くなってきました。子犬はと見ると、なんと寝ております。

助手席の下の足元で、車の揺れに合わせて左右に滑りながら時折少しジャンプしています。

腹が減って、寒くて心細く、ほとんど寝ていなかったと思われます。

こんな揺れる車内で見知らぬオヤジと居ても、コイツにとってココは天国なのでしょう。

こうなっては、もはや保健所に連れてゆくわけにもいきません

、いわゆる情が移ったと言うところでしょうか。
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さて、車酔いで青くなった私は

フェラーリにチャンピオンを乗せジョンウエインの待つロッジに2時間をかけやっと到着したのでした。 

驚いた事に雪はやみ、空には青空が出ていました。

(うむ、偽ジョンウエインの言った通りになった、第一印象は当てにならぬ)

そんな思いはおくびにも出さず 管理人と会い、受付を済ませます。

「ところでおじさん、ココは良い所ですが、夜なんかは寂しいでしょう」

「ああ、夜は静かでちょっと寂しいかな」

「そうでしょうねえ~。犬なんかいたら楽しいでしょうね」

「そうだねいいかもしれないね」

「ところでコンナ犬を知っていますか?」

私はチャンピオンを片手で持ち上げ、

「この犬はですねえ、

アマゾンの奥の奥に住むチャン族が古来より飼っていたチャンピオンと言う犬種で・・・・」

「お~い、早く荷物を運ぼうぜ」

遠くから友人の声がしたので、やむなく売り込みを中断してしまいました。

こうしてチャンプの就職は又もや失敗に終わったのでした。     つづく


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ヒヨの闘病生活-2

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カゼ?をひいて鼻水ダラダラのピヨ。娘が使い古しのスカートをはかせて
寒さを防ごうとしていますが、効果があるのやら。


病院に着いた私は先生様の言いつけを守り、一人で面会に向かいました。

少しの間看護士さんと話しをし、病室に連れて来て良いとお許しが出たので、

段ボールの箱ごと運び込み先生の診断を受けます。

その間に女房が受付をしていましたが、

カルテの患者の名前を書く欄を見て手が止まりました。

向かいには看護士さんがじっとカルテを見つめています。

やはり「ヒヨ」と書くのが恥ずかしいのでしょう。

(そりゃそうだ家で呼んでいるのと違い、この病院の雰囲気の中、

ちゃんとしたカルテに人の見ている前で「ヒヨ」と書くのは恥ずかしいわなあ。)

ちょっと可愛そうでしたが正直自分でなくて良かったと思いました。

私がもしカルテに名前を書かなければいけないとしたら、心の中で絶対

(看護士さんは笑っているだろうな。

仕事が終わって友達とか両親とかに話すだろうな。

そしてみんなで大笑いするんだろうな。考えすぎかな?

でもピー助とかガアとかピヨよりはましだよな)と思ったに違い有りません。

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いろんな血の混じっているリンゴちゃん。
胸の鈴が気に入らないもよう。


診察台の上でヒヨは仰向けにされ、羽を広げられたり、腹を押されたり、

逆さまにされたりと、ありとあらゆる体勢をとらされて、

びっくりしたような顔がさらにびっくりしたような顔になります。

気のせいでしょうか、その度に首を曲げて私の顔を見て

「いいの?いいの?私こんな事をされてるのいいの?あんたボスでしょ?

ナントカしなさいよ!」と言っております。

(すまぬヒヨ、これがお前のためなのだよ、不甲斐ないボスと思わんでくれい)

ヒヨの私に対する信頼が失せたような気になりましたが、

こればっかりはしょうが有りません。

「まず伝染病ではないでしょう。1日入院させて検査をしたいのですが、

え~そのう~実は・・・・費用が・・・ン万円でして・・・どんなもんかと。

何せあのう・・・入院させても直るとは限らないんですが・・・・」


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先生の言わんとする事はよく分かりました。

経済動物である家畜のニワトリにあまりお金をかけてもどうでしょうか?

と言った所でしょう。あまりの値段に私の顔はおそらく

ヒヨよりもびっくりしたようになっていたに違いませんが、

ことさら平静を装い、

「あはは~そ、その位ならお、お願いしようかな~ねえ?」

と女房をチラリと見やりました。女房も

「ウ、ウン、そ、そうだね~そうした方がいいかも・・・・」

そんな訳でヒヨを預けて私たちは帰路につきました。

その時の私の背中には間違いなく人生の悲哀が出ていたはずです。

帰りの車の中で女房が

「診察の間ずっとヒヨはお父さんの顔を見ていたよね。

知らない人にいじくられて助けを求めていたんじゃない」

やはり女房も気づいていたのでした。

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何を考えているか分からないリュウノスケ君。




 翌日女房と学校が休みの娘を従え、ヒヨを迎えに行きました。

片道2時間かかるのでちょっとした旅行です。

昨日はあわてていたのと暗かったで病院の建物をよく見ていなかったのですが、

けっこう大きくとても上品でしゃれています。

待合室もサロンといった感じで私らなぞは場違いな気がしてきました。

しかも待っている人も上品そうで、連れている動物たちも手入れが行き届き、

犬はみんな服を着ておりました。

(ちなみに純血種の犬を飼った事がない我々は

彼らのことを憧れを込めてブランド物と呼んでおります)

少々の居心地の悪さの中でしばらく待ち、やがて診察室に通されました。

「伝染病では無かったです、腸の病気ですね、

内臓が腫れて脊髄を圧迫し、下半身がマヒ状態になったんです。

こうした鳥は内臓の手術が出来ないんです。

残念ながらこのまま様子を見守るしか手はなさそうです」

ヒヨには悪いのですが本当にほっとしました。

戦闘ヘリも姿を消し、M1A1エイブラムズ戦車も去りました。

やはり平和が一番です。

しかしヒヨは医者に見離されたという事です。

こうなれば八百万(やおよろず)の神におすがりするしかないのです。

私はカメヤマローソクを買っておいて良かったと思いながら、

「そうですか、しょうがないですね、どうもありがとうございました」

と先生にお礼を言い、ヒヨを抱いて診察室を出ようと思って振り返ると

娘がいません。

娘はブランド物が寄り集う豪華サロンを、

ウンコまみれで羽のぼろぼろになった家畜のニワトリを抱いて歩くのが

恥ずかしかったのでしょう、さっさと我々を置いて先に出て行ってしまいました。

(フッ、フッ、フッ、まだまだ修行が足らんのう、

これしきの事で恥ずかしがっていては生きては行けんぞ、

母親を見習え、堂々と歩いておるではないか)と思いましたが、

結婚当初は女房も結構恥じらいがあったなと思ったのも事実です。

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確かにヒヨは下半身不随でどんなにフンの始末をしても

どうしても腹の辺りが汚れてしまいますし、多少臭います。

私も少々恥ずかしかったのですが、

ここは家長としての威厳を崩してはいけません。

私はぼろぼろのヒヨを小脇に抱え、分かるか分からないかの笑みを浮かべ、

ことさらゆっくり周りを見渡しながら、

セレブの如く上品に優雅にサロンを去って行きました

(これはあくまでも私の心の中のイメージであり、

他人にどう映っていたかは定かではありません)

家に戻ったヒヨは野菜かごに入れられ、リビングの片隅に置かれます。

以前のガアと同じように手渡しで餌を与えられ、

病状は一進一退を繰り返していました。

具合が良くて天気の良い日などはカゴごと外に出され日光浴をさせるのですが、

そのとき他の仲間達が集まって来て見舞いをするのかと思いきや、

いじめにかかりました。

カゴの外から全員が入れ替わり立ち代り突き出すのです。

ヒヨはカゴの中ですから実際には実害は無いのですが、

けなげにも必死で防戦します。

実は少し前具合が悪くなリ出した頃、

常々様子を伺っていたサマランチに攻撃を受けたのです。

二羽は好い勝負になりましたが遂に初めてヒヨが負けてしまいました。

どうもこの時に彼女達の中ではボスが入れ替わっていたのでしょう。

(余談ですがニワトリのメスだけの世界でもこんな権力闘争があるのでしょうか?

観察していますと、それぞれ順位がついている気がするのですが)

それからしばらくして私の神への絶大なる祈りと

おまじないのおかげでヒヨは少し回復し、

庭を散歩する回数が多くなりました。

本当はまじないの儀式のときは神へのいけにえを捧げるべきなのですが、

いけにえはニワトリと相場が決まっているので、

ニワトリを治すためにニワトリを殺すわけにも行かず、

不本意ですが諦めざるを得ません。

いけにえにするニワトリはたくさんいるのですが・・・

およそ一ヶ月の闘病生活の果て、ある朝ヒヨは冷たく硬くなっておりました。

餌もほとんど食べられなかったのによくがんばったと思います。

まだまだ若い4才の春のことでした。


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