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南海のブルーマーリン 後編

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キャビン内は真っ白で何も見えません。

「やっぱり俺達にはブルーマーリンなんて見分不相応だったんだ~!

近所の汚い小川でクチボソを釣っているのがお似合いだったんだあ~」

「そうだ!そうだ!クチボソでも立派過ぎる。

ザリガニで十分だあ~スルメの餌だあ~オマエはザリガニ野郎だあ~」

「オマエこそクチボソオヤジだあ~」

二人で子供のけんかをしている間に徐々に白い煙が晴れてきました。

チャーリーはエンジンルームに入ったまま出てきません。

少なくとも火災は収まりつつあるようです。

「おい、チャーリーは大丈夫か?煙に呑まれて倒れているんじゃあないのか?」

「そ、そうだ助けなきゃあ・・・・でもなんか変だぞ、火災の匂いがしない、ただ蒸し暑いだけだ」

私達は揺れる船室の中、精一杯動けるスピードでエンジンルームの開け放された扉に向かったのです。

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その時突然ディーゼルエンジンの頼もしい音が聞こえてきました。

始めはゆっくりそして徐々に力強くうるさい懐かしい音です。

そして扉からはチャーリーがウサギの如く飛び出して来て、

コチラを振り返ることなくキャビンを出て行ってしまいました。

床に這いずったままの我々は顔を見合わせ、

次々起こる事態に頭が追いついていけず、呆然としておりました。

 「チャーリーは無事の様だな、アレは確かにチャーリーだよな」

「ああ、チャーリーだ、間違いない」

「エンジンはかかったよな、間違いなく動いてるよな」

「ああ、エンジンは動いている、間違いない」

「火災は収まったのかな?煙は出てないようだが・・・・」

「・・・どうもこの煙は水蒸気の様だぞ、燃えたような匂いがしないもの」

「水蒸気?・・・そうだよな一度火を噴いたエンジンがそんなに簡単に直るはずがないもんな・・・

エンジンに海水がかかっただけなんだ・・・ヨカッタ」

船の揺れは相変わらずな物の、我々はだいぶ落ち着きを取り戻してきました。

チャーリーは無事だったし、船が動いてるところを見るとキャプテンも無事でしょう。

何時までもビール缶が転がりまわる床に這いつくばっても居られません。

二人して巨大な尺取虫になり、シートに戻りました。

すっかり定位置になった美女のシートを抱きしめます。

「ところで、誰がクチボソオヤジなんだ?ん?」

「オマエがザリガニ野郎と言うからだ。ザリガニ釣りをバカにしてはいかん。

あれは奥が深い。10匹20匹釣るのは訳はない、問題はそこからだ。

去年も挑戦してバケツ一杯しか釣れなんだ」

「バケツ一杯ザリガニを釣ったのか?そんなに釣れるのか?

またホラを吹いているんじゃないだろうな?」

「ホラではない、半日で大き目のバケツ一杯だ」

「・・・オマエいい年して半日もザリガニ釣りをしてるのか?一人で?」

「・・・ああ・・・そうだ・・・一人でだ」

「・・・・・・」
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この世の終わりと思って遺書まで書いた事態も時間と共に揺れも小さくなり、

絶世の美女とも離れ、少しは起き上がって歩けるようになって来ました。

船の揺れの中で歩くには少々コツがあります。

揺れに合わせて片足を交互に曲げたり伸ばしたりして、頭をなるべく動かなくするのです。

枝に捕まっている鳥が枝が揺れても頭はあまり動かないのと同じ要領であります。

こうする事によって船酔いも徐々にではありますが収まってきました。

悪い事は続きますが良い事も続きます。だんだん嵐も静まり、

空も晴れ間が見えてきています。

もう窓には波しぶきと空が良いバランスで収まり、

現金なもので我々の頭の中は釣りのことで一杯です。


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またもやチャーリーが扉を開け飛び込んできました。(頼れる奴ですが、忙しい奴です)

「ヒット!ヒット!」

どうやら我々がビールを飲んで詰まらぬ話をしている間に釣りのポイントに着き、

すでに仕掛けを海に流して魚を誘っていたらしいのです。

そのルアーに魚が食いつき早く来いとチャーリーは言っています。

いちばん手間がかかり地味な仕事を人任せにして、

おいしい所だけ頂くというのがこの手の釣りの醍醐味ですので、

二人とも船の後部の釣り座に走ります。

釣り座には一本の太くて短いロッドが立ててあり、

どうやらその先に大物だか小物だか判りませんがかかっているようです。

まず最初はBの番です。彼はイスに座りロッドを握りしめます。

素人用の仕掛けでありますからロッドは太く、ラインも太く、

微妙な魚とのやり取りは必要有りません。

力任せにリールを巻けば良いだけです。

不満は残るものの我々ではこのレベルで十分でしょう。

やがてBがぶッとい腕でロッドを引き、リールを巻き始めます

。魚は大きそうですが、Bの腕力を持ってすればこの程度は楽勝でしょう。

Bの体型を書いておりませんでしたが彼は筋肉バカでありまして、

身長は170センチと、さほど高くはありませんが太すぎる上腕二頭筋と分厚い胸を持っています。

体脂肪率もおそらく10を切っているでしょう。案の定楽々巻き上げてきています。
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「ヘイ!チャーリー。おちゃかなちゃんはなんですか?わかりまちゅか?」

どうして何時も会話の時(ヘイ!)を最初にに付けるのでしょうか?

(ヘイ!チャーリー)の発音はかなり良いのですが、その後に続く発音は最悪です。

「たぶん・・・もう直ぐ判るよ、見ててごらん」

その言葉通りラインの端っこを注視していた我々は感嘆の声を上げました。

魚がジャンプして空中に飛び出したのです。

「ブルーマーリンだあ~」

Bが興奮して叫びますがチャーリーが冷静に

「NO!セイル、セイルフィッシュ」

[セイルフィッシュ?何でもイイ、ブルーマーリンに似ている奴だ!」

「90ポンドあるかないかだよ、でもグットフィッシュだ」

我々には1mを超す魚は大きく見えましたが地元の人たちにとっては普通サイズなのでしょう、

はしゃぐBとは対照的にチャーリーは落ち着いたものです。


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やがて横向きになって巻き上げられたセイルフィッシュは頭を棍棒で殴られ船に上げられました。

手伝おうとした我々に船長は危険だからと制止し、

「このクチバシが危険だ、ブルーほど凶暴ではないが、こいつに刺されて死んだ奴もいるんだぜ」

と、私とBにニコッと微笑み、

日本人には絶対真似の出来ない仕草と表情で親指で首を切る真似をして見せました。


セイルフィッシュの名の通り背中のひれがセイル(帆)の様に大きく美しいこの魚は

日本では、バショウカジキと呼ばれています。

ゲームフィッシュではブルーマーリン(クロカワカジキ)よりランクが落ちますが、

我々にとっては相当嬉しい魚には違い有りません。

その後7~80cm位のシーラが何本か上がりました。

Bと私は交代でイスに座り力任せに抜きあげていきます。

「なあBよ、これは釣りと言うよりただ単に肉体労働では無いのか?」

「ああ、そうだな、釣った魚はみんな船長の物になるルールだから、

我々は金を払って船長のために黙々と魚を船に上げているのだ。

俺はジムでマシンと対決している気持ちになってきた」

「ところでオマエまた筋肉が増えたんじゃないか?いったい何をするつもりなんだ、

レスラーにでもなるのか?」

「うむ、それもイイかもしれない、それよりオマエはどうなんだ

前より筋肉量は増えている様には見えないが、筋トレをサボってるな」

「筋肉が落ちない程度にはやっているがこれ以上は必要ない、

ちゃんと箸は持てるし、ロッドも振れる。

オレは軽自動車を持ち上げる気はないからな」


「そうか、それは残念だ。オマエと競争していたのに、考え直せ俺が困る」

実は私も彼と同じようにジム通いをしていてダンベルなどを持ち上げてもう5年程になるのですが、

奴がライバル視しているのは何となく感づいていました。

会えば必ず腕相撲を挑んで来て、その勝ち具合によって自分の筋肉の成長具合を計っていたようなのです。

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さて筋肉バカはほおって置いて私はシイラを引っこ抜くのに専念していましたが、

そろそろ違う魚を釣りたくなってきました。

まだカジキを釣っていません、

このままだとセイルを釣ったBに一生自慢されてしまいます。

とは言えこの釣りは完全に船長任せのお気楽釣りですので、

如何ともしようが有りません。

ここで私がブルーマーリンを釣れば物語上面白くなるのに、

肝心な時にいつもひと踏ん張りがきかない私です。

やがて無情にも時間が来たみたいで、チャーリーがロッドをかたずけ始めました。

私は遂にシーラだけに終わってしまい、

この先の一生をBの酒の肴にされる事を覚悟し、

極力Bとは酒を飲まないようにしようと心に誓ったのでした。



「そろそろ帰らないと暗くなってしまう。暗くなるとこの船ではちょっとまずいよ」

チャーリーはニコッと笑い、私にウインクしましたが、

私には何のことやら分からず嫌な予感だけが残りました。

いったい何がマズイのでしょうか?夜に乗ってはいけない船があるとは聞いた事はないし・・・


船を反転させ帰路に着いた我々は快調に進んで行きましたが、

やがて船先の向こうの空に見覚えのある黒く陰気で寒気のする大きな雲の塊が見えてきました。

「おい、ひょっとしてあれは例の奴か?またあの嵐の中を通るのか?

どうなんだ?そこのところはどうなんだ?」

「ああ・・・・どうやらその様だ、どうもここに来る為のお約束らしい・・・

オマエのキングスイングリッシュで船長に聞いてみたらどうだ?」

「ヘイ!キャプテン!あの雲はなんでちゅか? 

またおおきくゆれるのでちゅか?わたちは、あのくもきらいでちゅ!」

「この季節は何時もあんなもんだよ、アレくらいの揺れは嵐とは呼ばない。

もっともさっきは少々やばかったがね、

実はそろそろエンジンを積み替えるかオーバーホールしなければいけない時期なんだ。

水も漏るしネ。アッハッハッー」

やはりそうでした。嵐の大きさはともかくとしても、

エンジンが止まるのは尋常では有りません。

しかもエンジンルームに海水が入るという事は有ってはならない事でしょう。

Bと私の切実な願いとは裏腹に黒い雲が近づいて来ます。

我々は顔を見合せ何もしゃべりません。やがて二人の気持ちが通じ合い、

お互いうなずくと愛しの長椅子に向かって断固とした足取りで並んで進んでいったのでした。
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南海のブルーマーリン 前編

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(レモン)


その日我々は日本の空港で手荷物検査を受けておりました。

我々と言うのは前回キャンプで一緒だったお調子者のBです。

二人で4メートル超のまかじきを釣り上げてやろうと分不相応の考えを持ち、

羽田空港のロビーで順番を待っていたのでした。

他の二人AとCは一応名の知れた大手のサラリーマンであり、

そうそうみんなそろって集まれる機会はないのです。

ちなみに信じられませんが彼らは会社ではそこそこ偉いのであります

(キャンプでの様子を会社の部下には絶対見せられません)

私とBは良く言えば自営業者で有り、悪く言えば職業不詳ですので、

地位と名誉と金は有りませんが時間だけは自由になります。

検査は手荷物を赤外線で走査して中身をモニターに映し出すのですが、

その時係りの女性が上司と思しき男性に呼ばれて席を立ち居なくなってしまいました。

私はチャンスと思い体をずらせてモニターを覗き込みました。

と言うのもバックの中身に少々不安があったのです。

中には振り出し式の小さな金属製のルアーロッドと数々のルアーが無造作に放り込んであり、

ひょっとしたら没収されるかもしれないと思っていました。

案の定モニターには得体の知れない数々の白い文様が表れ、明らかに不審物であります。

係員が戻ってきてモニターを見つめました。考えております。

あっ、うつむきました。顔をしかめています。間違いなく疑っております。マズイ!・・・・

やがて彼女は決心した模様であります・・・・・・なんと私は無事通過できました。

当時は現在と違ってテロなどの心配はなく、空港のチェックはそれほど厳しくなかったのです。

しかもその時ちょうど空港職員の組合がスト中だったものですから、

現場はかなり混乱していた様でした。
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(本文とは関係有りません)


南国の太陽がこれでもかと降り注ぐ港で

私達二人は振り出し式のちゃちなルアーロッドを振り回していました。

チャーターしていたクルーザーが用意できるまでの少しの間も待ちきれずにルアーを放り込みます。

赤やら青やら港の中と思えないほどのきれいな魚の群れが泳ぎ回り、

飽きないくらいの間隔で10cmほどの平たい魚が釣れます。

「俺はこれだけで満足してしまいそうだ。ねえちゃんはビキニだし」

「ああ、日本のしゃれた名前の釣堀より良く釣れる。しかもここは無料だし、ねえちゃんはビキニだ」

「日本のスレた魚たちとは違いルアーの選り好みはしないな、

100円のスプーンでも釣れるぞ。しかもねえちゃんはビキニだ」

「ねえちゃんはビキニだが、オバチャンもビキニだ」

「ウン、太ったオバチャンもビキニだし、太ったオジちゃんはトップレスだ」

「太ったオジちゃんのビキニは見たくない」

「痩せたオジちゃんならイイのか?」


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画像、写真の修正、合成、修復など、写真を自自在に加工する事が出来ます。目をパッチリ二重に、肌をきめ細やかに、体型をスマートにシミ、シワを除去して若々しく、写真の修正、合成の事ならお任せ下さい。

 

やがて時間が来て私達はクルーザーに乗り込みました。

釣り道具などは全て船の常備品ですから気楽なもんです。

我々は自分の釣り道具を持って、場所を選定し、

ターゲットを絞る本格的なトローリングをする気はまったく無く、

観光の延長線上で「何か大きな魚が釣れればよいなあ~」位の考えであります。

ですので、この章の題は正確には「南海のブルーマーリン・・・

だったらいいなあ~出来れば4mを超せばなおいいなあ~」です。

乗組員は私達二人と太っちょで190cmを越すであろう巨漢のキャプテンと

まだ10代で私達の世話をしてくれるボーイの4人です。

我々は、外洋に出るにはやや不安が残る大きさのクルーザーですが喜び勇んで出港しました。

私の英語能力は並外れてすばらしいので、さっそくキャプテンに話しかけます。

「ハジメマチテ!ワタチ、ニポンノアングラーアルヨ!

キョウハ、イパイ、イパイ、オチャカナ、ツリタイアルヨロシ・・・デシタネ・・・デチタカ?」

「初めまして、今日は君達に大物を釣らせる為に俺はベストを尽くすぜ!」

(たぶん船長はそう言ったと思われます)

「オオ!ソデチュカ、ソデチュカ、ソレハ、タノモシデシタネ・・・・デチタカ?」

「しばらくこのリーフの中を走って外洋に出て、さらにしばらく走るとそこがポイントだ。

それまですることはないからビールでも飲んでゆっくりしていてくれ、OK?」

(キャプテンはそう言ったはずです)

「OK、OK、ワタチビールスキアルヨ、オチャケ、アレバドコデモハッピーデチタネ・・・・デチタカ?

・・・デチョウ?・・・デチュ?」
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(めずらしく卵をあたためているピヨ)


天気は最高、コバルトブルーの海とその下のさんご礁、海は完全に凪状態で風もなし、

クルーザーは気持ちの良い速度で走ります。

キャビンの中で飲む冷えたビールは旨いに決まっています。

ボーイのチャリー(完全に仮名です)が次々とバドワイザーの缶を出してくれて

我々は上機嫌でありました。

「ところで、オマエその英語らしきものは話すのをやめたほうがイイ。

過去、現在、未来がごっちゃ混ぜだし、疑問形かそうでないかすら分からん。

発音に至ってはこの世の終わりだ。日本の恥だし国際問題になるぞ」

「ナニを言う、ちゃんと通じているではないか、船長の笑い顔を見たろう?

国際親善に大きく貢献しているじゃないか」

「アレは笑っているのじゃなくて、笑われているのだ。

しかしまあしょうがない、話さないと上手くはならないからな。

でも大事な話は俺にさせろ、間違って船がキューバにでも行ったらかなわんからな。

オマエには本物のキングスイングリッシュのお手本を聞かせてやろう」

少し不満はありましたがBは大学時代成績優秀でしたし、

海外旅行も何回も経験しているので、ここはしぶしぶ任せる事にしました。

「良く聞いてろよ。ヘイ!チャーリー」

「yes、何だい?」

「チミは、なんちゃいでちゅか?がくせいちゃんでちゅか?」

「17歳で学生だよ、毎年シーズンになるとこの船でアルバイトしてるのさ、給料もいいしね」

「ちょうでちゅか、ちょうでちゅか、ちょれはヨイコでちゅねえ、うちのむちゅことおなじトシなのに、

チミはえらいなあ~」

汗だくで一生懸命チャリーと話をしているBを捨て置いて、

ビーフジャーキーをかじりながら冷えたバドワイザーをグイグイ飲み干しました。
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(向かって右から1歳、2歳、3歳のニワトリの卵)


青い海と青い空はどこまでも続いておりました。

やがて船はリーフを出て外洋へと進んで行くのですが、ここで海の表情は一変します。

あれほど静かだった海面は荒々しさを増し、青かった海はどす黒く変色してきました。

むかし何かの小説で読んだのですが海の色は7色有ると言うのです。

主人公は一面ミルク色の海をひたすら何日も進んで行ったそうです。

私は半信半疑で一度ミルク色の海を見てみたいもんだと思っていましたが、

この茶色っぽい黒っぽいなんとも表現しようのない不思議な色の海面を見ていると

何でもありそうな気になってきました。

船長に聞いてみようと思いましたが、彼はキャビンの上の二階になった所にある操舵室に居るので、

この揺れでは登っていく前に振り落とされそうだし

(二階に行くにはデッキに出てはしごを上らねばなりません)

なりより邪魔だろうと思い直し、おとなしくテーブルにしがみついていました。
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(自作ルアー)


時間が増すごとに波は荒くなってゆきます。

もう既に座っている事も出来ず、私達は船に固定された長いすに下向きに寝そべり、

しっかりシートに抱き付いておりました。なんとも情けない恰好ですが、

そうでもしないとキャビンの中でアッチコッチ飛ばされてしまいます。

キャビンは私達が開けたビールの缶が音を立てて飛び交い派手な音を立てています。

でもそれを拾って片付ける事は到底不可能であると判断し、そのままにしておきました。

「なあ、俺達は死ぬのか?死んでしまうのか?どうなのだそこのところは?」

Bは青い顔をして私に尋ねます。二人は確実に船酔いをしておりました。

酒で酔った上に船にも酔い、青い顔も恐怖のせいか船酔いのせいかも分かりません。

「知らん!船長に聞け。我々に今出来る事はこの長椅子のシートを絶世の美女と思い込み、

しっかりと抱きついている事である。それ以外考えるな」

キャビンには丸い窓があって外の様子が垣間見えます。

別世界のような窓の外は真っ黒な雲と真っ白な波しぶきが交互に見えます。

そのうち窓の外は海一色になってしまいました。

「どういうことなんだ!窓には海水しか見えんぞ、窓と言うのは上か横に付いているもんだ。

横が下になったのか?この船はグラスボートなのか?」

おそらく船よりはるかに大きな波が立っているのでしょう。

その証拠に何分かすると今度は鉛色の空しか見えなくなりました。

さすがにのん気な私も不安になってきます。

チャーリーもどこに行ったか分からず、姿を見せません。

もしかしたら船長と一緒に波に飲まれたんじゃあ?

あんな高い所で、ほぼむき出しでキャビンよりもはるかに揺れは大きいであろう

操舵室に居たんだから落ちても不思議はないんじゃあ?
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〔自作ルアー)


「おいBよ、キャプテンもチャーリーも居なくなった。もう俺達でナントカするしかない。

オマエは操船が出来るか?」

(緊張と恐怖のあまり自分が何を言っているのか判っていおりません)

「な!ナニを申しておる。いなか侍め!キャプテンがどうしたって?チャーリが何だって?

操船がどうしたと言うのじゃ申してみよ!」

私と同様Bも動揺を隠せません。船酔いと酒酔いと恐怖でパニック状態であります。

「船を波に向けて直角にしなければならん!横波を受けるとひっくり返されてしまうぞ。オマエやれ」

一見冷静そうな私の発言ですが、後で考えると明らかに映画とアニメの見すぎです。

しかもセリフはヒーロー風ですが人にやらそうとする所がいかにも小物であります。

「アホ!そんな事、出来る訳がないであろう。拙者は湖のボートさえ真っ直ぐには漕げん!」

上下左右すら判らずシートに必死でしがみ付く事しか出来ない我々は、

さらに追い討ちをかけられました。

今まで力強く動いていたエンジンが止まってしまったのです。

いきなりの静寂、出航してから数時間の間に聞き慣れていて、

時にはうるさいとさえ思っていた、いとおしいエンジンが黙ってしまいました。

聞こえるのは激しい波の音と風の音のみ、

それと同時に我々のつまらぬ会話も終突然わってしまいました。

今までも恐怖はありましたが、どこかで大丈夫と思う心が残っていて、

三割ぐらいは冗談でしゃべっていたのですが、

ここに来て本当に心配になりました。

この嵐と呼べるほどの状況の中で

エンジンを意識的に止めるキャプテンはおそらく皆無でありましょう。間違いなく事故です。

「オレは女房に手紙を書く事にした、空き瓶に入れて海に流すのだ。

いつか誰かが拾って届けてくれるだろう。そしてその時女房は声を上げて泣くのだ」

さすがはBです、彼の嫁が泣くかどうかは別にして、

この状況下でもまだ冗談が出るとは見上げた奴であります。私は少し気が楽になりました。

「大丈夫だよ、キャプテンがエンジンのテストをしているのさ、その内動くよ・・・・

動くといいなあ・・・・」

Bは黙ったままソロリソロリとシートの上を這い出し

(その恰好はまるで巨大なしゃくとり虫を連想させました)自分のバックに手を伸ばします。

そして中から手帳とボールペンを引っ張り出しなにやら神妙な顔で書き始めました。

「イ、イカン。奴は本気だ。」

Bは本気で嫁にラブレターを書いている模様です。

奴が壊れると私も壊れそうなので、

もうこれ以上余計な物は見ないようにして目を閉じる事にしました。

アクション映画はブラウン管のコチラ側で見るもので、けっして現実に起こってはいけません。

やがて良い事と悪い事が同時に起きます。

チャーリーがびしょぬれになってキャビンに突進してきて、

床にある扉を両手で目いっぱい持ち上げました。

中からは白い煙がシューシューモウモウと湧き上がり、

キャビン内は真っ白で何も見えません。キャビンの真下はエンジンルームだったのです。

エンジンが燃えている・・・少なくともチャーリーは無事だったので笑いかけたのですが、

その後の煙の噴出でBと私は笑顔が凍り付いてしまいました。

私の耳にはBがボソッとつぶやいた一言がこだまの様に頭の中を駆け巡っていました。

「終わったな・・・・」                    つづく



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